| --まずは、川淵キャプテンがスポーツ環境を意識したきっかけをお聞かせください。
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| 川淵 |
1960年、4年後の東京オリンピックに向けたサッカーの強化合宿で、初めてドイツ・デュイスブルグのスポーツシューレを訪れました。
スポーツシューレとは「スポーツの学校」という意味で、ドイツには20カ所ほどあります。そこは芝生のグラウンドや体育館、プール、ジムなどのスポーツ施設のほかに、多目的ホールや宿泊施設なども完備されており、各競技の選手育成・強化のための合宿や研修会などに利用されています。
同じ1960年ごろの日本には芝生のグラウンドなんて皆無ですよ。日本代表ですら石ころの転がっているようなグラウンドで練習をしていた時代です。そんな日本と正反対に、ドイツでは緑豊かなグラウンドが何面もあり、各国のトップ選手が練習している横で子ども達のチームもサッカーの練習をしている。
また、体育館では身体障害者の方々が、車いすに乗ってバレーボールのような競技を楽しんでいました。日本では体に障害を持つ人がスポーツをすることなんて考えられない時代でしたから驚いたと同時に「ドイツに生まれた人は幸せだなぁ」と思いました。
初めてプレーする芝生のグラウンドは土のそれとはまったく異なり、ボールコントロールやドリブル、シュートが簡単に出来て、急に上達したような気がしました(笑)。普通ならば、合宿は厳しくて、早いところ切り上げたいなと思うのですが、その時は楽しくて、いつまでもサッカーをしていたいと思いました。うれしくてなかなか寝付けなかったことを覚えています。
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--なるほど。それが東京オリンピック・アルゼンチン戦での伝説的なゴールにつながるわけですね。ところで、日本ではスポーツ環境を整えることに対して「ゼイタクだ」「劣悪な環境から這い上がるのが美徳だ」と蔑ろにされる傾向がありますが、どのように思われますか?
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| 川淵 |
ナンセンスですよ。だから、日本はスポーツ三流国と言われるんです。スポーツは本来、楽しんでやるものであって、精神修行を目的としたものではありません。
緑の美しい芝生、清潔な体育館やプール……そういう良い環境でスポーツに打ち込み、楽しんだあとに温かいシャワーで汗を流す。そういうことが出来て、初めて満足感や達成感を味わうことが出来るのです。
また、楽しんでスポーツをする中で、さらに上へのレベルを目指して努力したり、厳しい練習に耐えられたりしていく。劣悪な環境や一方的なしごき・訓練は運動嫌いを助長し、スポーツ人口を減少させ、日本のスポーツにレベルアップをもたらしませんよ。
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--Jリーグ・チェアマン時代、鹿児島にJリーグのキャンプを視察した際に、芝生の小学校をみつけ、その後、そこの学校でサッカー教室をしたと聞きます。その行動力には我々も見習わねばならないと思いますが、日本サッカー協会会長という職に就かれても、芝生の学校へは足を運ばれますか?
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| 川淵 |
芝生の学校があると聞けば、予定がつく限り、見に行きます。
仰っている鹿児島の小学校というのは指宿にある『池田小学校』で、2年前に偶然通りかかって見つけました。それ以来、親交を深めており、2001年には地元とで合同で行われる運動会にも参加しました。
2002年の3月には東京で初めてグラウンドを全面芝生化した東京都杉並区の『和泉小学校』にも行きました。休み時間に芝生の上で遊ぶ子どもたちを眺めていたら、その中で友達に付き添われて歩いている男の子がいました。「おや?」と疑問に感じたので、校長先生に事情を伺うと、その男の子はそれまで車いすと歩行器でしか歩かなかったのですが、芝生化した途端に、自分の力で歩こうとしたらしいのです……なんだかその話を聞いたら、目頭が熱くなりましたよ。芝生にはそういう、何ともいえない力があるんですね。
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--和泉小学校は私も何度か足を運びました。全面芝生ということに加え、芝生を管理する体制も整っている理想的な「芝生の小学校」ですよね。私も思わず、裸足になってしまいましたよ(笑)。
さて、芝生とスポーツは切っても切れない関係にありますが、やはり、地域のスポーツ環境を整えるにはJリーグという存在も今や見逃せない存在となっていますが、例えば、Jリーグのクラブが所有する練習グラウンドを開放したり、定期的に地域の子どもたちにサッカー教室を開催したりしているクラブというのはあるのでしょうか?
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| 川淵 |
J1、J2の計28クラブはすべてホームタウンを中心とする地域で、サッカー教室やフットサル、そのほかサッカー以外のスポーツ推進にも積極的です。
2002年4月より、Jリーグは新規事業で「Jリーグアカデミー」をスタートさせました。それは、5歳くらいの幼児期から、サッカーだけではなく、色々なスポーツを通じて体づくりをしたり、スポーツを通じた心の教育もしていくというものです。現在では鹿島アントラーズ、FC東京、横浜Fマリノス、ジュビロ磐田、名古屋グランパスエイト、ガンバ大坂、サンフレッチェ広島の7クラブがその活動をスタートさせ、指導者が幼稚園や小学校を回って、遊びを通じてスポーツの楽しさを教えています。
将来はアカデミーで培ったノウハウや情報を各地のサッカー協会やスポーツクラブなどで共有し、実践していけるようにしたいと考えています。
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--10年目を迎えた「Jリーグの理念」「百年構想」を具体化しているわけですね。
最後に、川淵キャプテンの芝生への思いをお聞かせください。
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| 川淵 |
指宿市・池田小学校で行われている地域との合同運動会や杉並区・和泉小学校での男の子との話……どれも芝生のグラウンドが生んだ心温まるエピソードです。つまり、そういう素晴らしい価値を芝生のグラウンドは持っているということです。
また、近年、子どもたちの運動不足や運動能力の低下が叫ばれていますが、芝生のグラウンドがあれば、みんなそこに行って寝転んでみたり、飛び跳ねたりしたくなるでしょうし、子どもだけでなく、大人もお年寄りも外に出て、体を動かしたいと思うようになるでしょう。高齢化社会になり、寝たきりの老人が増えていますが、寝たきりでは人間の尊厳が失われてしまいます。それを防ぐためにも芝生の広場が素晴らしい効果を生むのだと思うのです。
芝生のグラウンドや広場が出来、そこに色々な世代の人々が集まることで、年齢を越えた交流が生まれるのです。核家族化が進んだ今、こういった地域の人々が集まるコミュニティは必要不可欠です。スポーツをして心と体を健康にし、色々な人と交流を図ることが豊かな人生を送られると思っています。
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--お忙しい中、ありがとうございました。
Text by Junji Madogiwa
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